課題
ブレードを日常的に使用するには、切断から走るに至るまでのプロセスの中に様々な課題が点在しています。

1. お金がかかる
ブレードのような走るための義足のパーツは保険が適用されないため、基本実費になってしまいます。例えば、大腿義足の人が走ろうと思った時に、日常用のソケットを使用したとしても疾走用の膝継手とブレードなどを合わせると60~100万円ほどかかります。アスリートであれば、速く走るためにいくらでも払いますが、日常のなかでちょっと走ってみたいと思うくらいでそれほどの高価なものはなかなか買うことができません。
2. 経験のある医療従事者が少ない
現在日本で60,000人ほどの下肢切断患者がいると言われていますが、日常的に疾走用の義足を使って走っている人は1%にも満たないほどです。そのため、走るための義足に関する知識を持つ整形外科医、リハ医、義肢装具士の数も少ないといわれています。
3. 自分で義足を付け替えることにリスクが生じる
断端と義足をつなげるソケットの作り方があらかじめ走ることを想定していれば、日常用義足と走るための義足を付け替えることはそこまで難しいものではありません。しかし、運動中に外れてしまったり付け替えが原因で壊れてしまうリスクもあるため、義肢装具士にとってなかなか患者さんに義足を交換をさせることを推奨することは困難です。
4. トレーニング方法がわからない
走るための義足を使って走ることは、健常者が走ることとは多少異なるため、最初は難しいものです。特に、大腿義足や股義足、両足義足である場合、通常の走行運動とは異なる義足の使い方を練習する必要があり、コーチできる人が限られています。
5. 周囲の方々の理解が得られない
義足で走ることによって転倒のリスクも発生します。また、義足は硬いので他の人にぶつかると怪我をするリスクもあります。しかし、本人が走りたいと思うのであれば、それを周りがサポートする環境が必要になりますが、リスクを過大評価してしまい、義足ユーザのチャレンジの場が失われてしまうケースが多々あります。
などがあります。
アプローチ
研究開発
- ブレードを含む安価な義足パーツの開発
ブレードなどの義足パーツのコストが高いことが最も大きな敷居であると言われています。我々は走り出すために必要な安価な技術の開発を行っております。また、通常であれば走るためのパーツを取り付けることができないソケットに取り付けるためのカスタムパーツの開発も行っており、より多くの義足ユーザが楽しく走れるような技術開発を進めております。
- ブレードで走ることによる身体/心理的変化などの追跡調査
現段階では走るための義足は現在保険適用外であるため、義足使用者が気軽に使えるものではありません。我々は義足使用者がブレードを使用して走ることによる身体・精神的変化などの追跡調査を行い、当事者や社会全体のWell-beingへの貢献することの有無に関する科学的エビデンスの構築に努めます。

個別対応モデル構築

義足ユーザが走りたいと思った時、切断理由、切断箇所、残存機能などが千差万別なため、個別に対応することが必要となります。このプロセスを義足ユーザを担当している医療従事者たちと連携し、走れるようになるまでをサポートします。プロセスは以下の流れになります。
- 切断やソケット情報の確認
- 必要なパーツの用意
- フィッティング
- 義足の付け替えの講習
- ランニング練習
様々な症状のユーザを対応することにより、蓄積されたプロセスのノウハウを他のユーザに還元していきます。
コミュニティ形成
我々はユーザ、その家族、医療従事者、地域や行政といった様々なステークホルダーを包括したコミュニティ形成のため以下の活動を行っております。
- オンラインイベント「xXiborg(クロスサイボーグ)」
オンラインイベント、xXiborg ブレードで走ることに関するトピックで、毎回Xiborgにゆかりのあるゲストを国内外から招待し、他のメディアに載らない、これから実際に活動していくプロジェクトに関して議論します。 - ランニングイベント
義足ユーザを招待し、ブレードの付け替え方、走り方を学ぶクリニックを開催します。これまでに静岡県障害者スポーツ協会と協力し、静岡県ブレードランニングクリニックを開催しました。 - NPO法人ギソクの図書館
世界一ブレードで走る敷居の低い場所として、たくさんのブレードを所有し、自分の好きなものを選んでその場で試すことができるようになっています。2018年NPO法人化し、Xiborgは運営の一部を行っています。

教育ツール
当事者またはその家族向け
義足の交換手法やランニングのトレーニングなどをオンラインで学べるように整備します。
医療従事者向け
本プロジェクトを通じて走り出したランナーのケースから、ざまざまな症状から走り出すまでの情報集約、提供をします。
一般向け
体験用義足を用いた教育ツールを用いて、一般の方々への認知にも取り組んでおります。義足で走ることについて身体的難しさ以外にも、これまでサポートした子供たちの実体験を元にした心理的な難しさについても議論も行います。
海外向け
これらの活動をグローバルに広げるため、教育ツールの多言語化を進め、世界の義足ユーザが当たり前に楽しく走る社会を目指します。これまでにアメリカ、ラオス、インドなどで活動を広げています。

ブレードランナーたち
H.S
片大腿義足(膝関節離断)
先天性脛骨欠損
ギソクの図書館創立当初からブレードを日常的に使用しています。ソケットの下部には子供用のメスピラミッドが使用されており、大人用のオスピラミッドを固定するために、全てのネジを一旦緩めた上で交換する必要がありますが、担当義肢装具士から交換方法を学び、小学校5年生の頃から疾走用の義足と日常用の義足を自分で付け替えて学校でも日常的に走っています。現在中学校で陸上部で練習中。
S.T
片大腿義足
骨肉腫
日常用のソケットをそのまま使用し、日常用の義足と疾走用の義足を自分で付け替えて、運動会や体育で使用。断端と地面との距離が27cmと短いため、通常の膝継手とブレードを組み合わせると入りません。そのため、ブレードの一部を切り落とし、特注のコネクタを制作して対応しました。
M.Y
片リスフラン切断
先天性
足関節が残っているため、地面との距離がほぼありませんでした。そのため、自分がブレードを使って走ることはできないと思っていました。静岡県のブレードランニングクリニックに参加してくれたことから、担当義肢装具士がソケットを新規に制作し、ソケットの後方にブレードを取り付けることで対応しました。ソケットごと履き替えることで運動会や体育で日常的に使用しています。
D.S
足関節離断
先天性腓骨欠損
テレビの番組をみて連絡をいただき、走りたいという思いを伝えてくださいました。踵骨が残っているため、断端が長くブレードをそのままソケットの端部に接続することができませんでした。そのためにカスタムコネクタを制作し、ブレードを取り付けることが可能となりました。付け替えにネジを緩めたり、締めたりすることが必要ですが、自分で付け替え方を学び、学校での使用をし始めたところです。
M.T
足関節離断
先天性腓骨欠損
インターネットでギソクの図書館を見つけてきてくれました。毎月一回クリニックで走りに来てくれましたが、学校などで走ってみたいということでブレードの付け替え方を学び、2021年から日常的に走り始めました。断端は長めですが、子供用のブレードを日常用の義足と付け替えるだけで走ることができます。
社会的インパクト
20201年以降のレガシーとして
障害者のスポーツ実施率は健常者よりも低いことが知られています。障害がスポーツの障壁を高くし、諦めてしまっている切断患者が多くいるためです。本プロジェクトは、スポーツを通じて切断患者や周辺の環境のWell-beingを実現することを目指しています。これは障害あるなしにかかわらずすべての人に健康と福祉を目指す持続可能な開発目標(SDGs)にもつながる活動でもあります。さらには、スポーツを行うことが義足ユーザの発育や社会活動への参加につながり不平等の撲滅、平和と構成、パートナーシップの広がりなどにもつながります。

コロナウィルスの影響
最近ではコロナウィルス感染により、人々の移動や物理的な繋がりが制限されています。その中でも、屋外で1人で行うランニングは感染リスクの最も少ないスポーツです。しかし、義足ユーザは専門家の物理的なサポートがないと走ることすらできないのです。本プロジェクトは、現段階では周りのサポートがないと走ることができない切断患者が1人で走り出せるまでのサポートを、できる限り安全な環境やオンラインで行い、自分で走りだすことができるような仕組み作りを目指しています。この枠組みは、日本国内だけでなく、国外特に日本よりもサポートの少ない途上国でも展開が可能であると考えています。コロナウィルスの感染で移動や物理的なつながりは制限されてしまっていますが、オンラインでは世界と強いつながりが生まれると考えています。
D2C(Direct to Consumer)モデル
現在、義足の購入は主に義肢装具士を通じて行われます。これを、我々が自分で好きな靴をネットで購入する感覚で、義足パーツも買うようにすることができないかと考えています。安全面はもちろん考慮しなければなりませんが、自分で走りたいと思った時に走れる環境を作るためにはブレードのD2Cモデルが必要であると考えます。これは業界にとってとても新しくチャレンジングな試みでもあります。
FAQ
Q. Blade for Allとはなんなのでしょうか?
A. 義足ユーザが日常的に楽しく走れるような社会を目指しているプロジェクトです。株式会社Xiborgが主導し、多くのパラアスリートや義肢装具製作所、地方競技団体などと協力し、走るまでのプロセスのグランドデザインを行います。
Q. 日常用義足で走ることはできないのでしょうか?
A. 一応走ることはできますが、日常用義足はブレード走るのに比べ跳ねる感覚がありません。例えるのであれば、スキーブーツで走る感覚に近いと言われています。ブレードで走ることにより、本来の走る喜びや楽しさを感じることができるので、できれば早い段階で走ることを一度は体験することをお勧めします。
Q. 自分が義足を使用しているのですが、ブレードで走ることは可能でしょうか?
A. 切断箇所、残存機能、使用されているソケットのタイプなどにより、使えるパーツやブレードが異なる場合があり、個別対応が必要な場合があります。気軽にこちらよりご相談ください。
Q. 走るためにお金がかかるから結局走ることは難しいのでは?